東京高等裁判所 昭和47年(ネ)2030号 判決 1974年12月10日
控訴人
南総興業株式会社
右代表者
田丸長治
右訴訟代理人
大塚喜一
ほか二名
被控訴人
日特重機車輛株式会社
右代表者
西村恒三郎
右訴訟代理人
原田勇
ほか三名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一<証拠>によれば、被控訴人は本件機械の製造会社である日特金属工業株式会社の生産した建設機械の販売会社として、本件機械(但し、未登記の建設機械であることは弁論の全趣旨により明らかである。)を所有していたことが明らかである。
二被控訴人と訴外京葉資材株式会社(代表取締役原武義)間に本件機械の売買契約が成立したことは前顕各証拠により明らかであつて、控訴人はそれによつて本件機械の所有権が右訴外会社に移転し、以下控訴人主張の経路を経て順次所有権が移転し、結局控訴人が本件機械の所有権を承継取得したと主張するが、<証拠>によれば、被控訴人と右訴外会社間の売買は、代金が七、三四二、二六〇円で、契約時に内金三、〇〇〇、〇〇〇円が支払われ、残金は二六回に亘つて月賦返済されるべくその代金が完済されたときに被控訴人が発行する正規の譲渡証明書の交付があることによりそこで所有権が移転する特約になつていたことが認められ、右訴外会社が右代金を完済したとの主張立証はなく、むしろ右証言によれば、右訴外会社は右代金を完済しないうちに倒産したことが認められるから、本件機械の所有権は被控訴人に留保されているものであり、したがつて、控訴人の前記順次承継取得の主張は採用できない。
三次に、控訴人は、本件機械の占有承継の過程において、訴外菅藤勉及びその他の中間取得者がその所有権を即時取得したと主張し、<証拠>によると、土木建築業菅藤工務店を営む菅藤勉が昭和四五年二月二八日かねて星上建設興業株式会社から請負つていた工事代金の一部の決済方法として、右会社の会長安西亀吉、同社長星野徳治の申入れにより、本件機械を三、五〇〇、〇〇〇円と評価してその譲渡をうけ、その頃自己の作業現場において現実の引渡をうけたこと、ところが、菅藤勉はその後同年五月頃自己の手形決済資金のために手形割引などの金融を業とする訴外植草四郎に対し代金一八〇万円で本件機械を譲渡引渡をし、更に、本件機械は右植草四郎から金融業者「銭屋」に譲渡引渡されたこと、が認められる。
しかしながら、<証拠>を総合すると、訴外安西亀吉(但し、同訴外人は本件記録中の戸藉謄本によれば昭和四九年二月二日死亡した。)は会社組織で土木建設業、建設機械(いわゆるダンプ、レッカー車など)の販売修理業などを経営していたが、訴外平田勝明は昭和四四年三月頃から右安西亀吉と知り合い、その後同人から資金の融通を受ける間柄となつて、同人から借受けた金員を自己の仕事先である訴外京葉資材株式会社に貸付けていたこと、本件機械は、訴外平田勝明が昭和四五年二月一四日頃前記京葉資材株式会社に対する自己の請負代金、貸金など合計約五五〇万円を超える債権の弁済に充てようとして同会社から勝手に持出し、更にこれを訴外安西亀吉に対する自己の債務約五〇〇万円の弁済に代えて同訴外人に譲渡して引渡したものであり、したがつて本件機械はその後菅藤勉に対し、星上建設興業株式会社や星野徳治の所有物件として売買されたのではなく、安西亀吉個人の所有として譲渡されたものであること、安西亀吉は同人が本件機械を菅藤勉に譲渡した当時には平田勝明が前記京葉資材株式会社から本件機械を勝手に持出し泥棒呼ばわりされていたことを知つていたこと、(なお、前記原武義は同年三月二六日頃窃盗の被疑罪名で平田勝明を告訴したこと、)右菅藤はかねて平田勝明なる人物を知つており安西亀吉とも昵懇の間柄であつたので当然それらの者の人となりを知悉していたと認められること、したがつて安西亀吉は勿論菅藤においても本件機械の入手経路について疑問をもつべきであつたことが認められ〔る。〕<証拠判断省略>
他方、<証拠>を総合すると、次の(イ)ないし(ホ)の各事実が認められる。
(イ) 本件機械は昭和四四年製造にかかるもので、新品として被控訴人から京葉資材株式会社に販売されたものであること。
(ロ) 被控訴人を含むいわゆる大手四社が本件機械の如き大型建設機械を販売するには、官庁関係を除いては、極めて多くの場合割賦販売方式によつてこれを行ない、その割賦弁済の期間は本件機械の如く代金が高額である場合には二年以上に及ぶ取引が通常に行なわれていて、その割賦代金完済までその所有権は販売会社に留保されることが殆どであること。
(ハ) 建設機械の大手製造会社は、日本全国で僅か四社しかなく、その商品たる建設機械自体に打ち付けてある金属板(プレート)によつてその製造会社名、指定販売会社名、製造の年等が一目瞭然であり 他方指定販売会社においては、帳簿を備付けてその機械のアフターサービスや修理に必要な事項として車種、車番等と共にその所有関係も常に明かにしていること。
(ニ) 本件機械にはアワーメーターが取付けられており、その使用時間数や前記製造年から推定して、本件機械が相当新しいものであるということが容易に判別できるものであること。
(ホ) 我が国では、昭和四十三、四年頃から悪質なグループの暗躍により全国的に建設機械の行方不明が頻発し、前記大手四社を中心としてその対策に苦慮しているという一般的な状況にあつたこと。
以上の各事実及びその認定資料を総合すると、本件機械の如き大型建設機械を取引の対象とするところの土木建設業者においては、通常の注意を払えば、本件機械がいまだその割賦代金が完済されておらず、その所有権が販売会社に留保されている蓋然性が高いことに気づき、これが譲渡をうけるにあたつては、予め指定販売会社に照会してその権利関係を調査することが可能且つ容易であり、その注意をつくすべき義務があつたことが認められる。
しかるに、<証拠>によれば、同人は譲渡人たる安西亀吉を信用し、唯安易に「このブルは私のブルだから大丈夫だ」という言を聞きおくのみで、前記認定の調査方法をとらなかつたことが明らかであるから、仮に同人が前主の無権利について善意であつたとしても、過失があつたと謂わなければならず、同人の即時取得は、これを容認することができない。
また、菅藤勉の前主である安西亀吉も土木建設業者として前示事実関係のもとにおいては、本件機械の占有を取得するにあたり、その前主である平田勝明の無権利について知らなかつたとすれば、前示注意義務を怠つた過失があつたと謂わなければならず、安西亀吉の即時取得もこれを容認することができない。
更に、菅藤勉より本件機械の占有を取得した植草四郎及び同人よりその占有を取得した「銭屋」はいずれも前示の事実関係のもとでは、それぞれ金融業者としてその金融取引に関連して本件機械を取得したものと認められ、その営業の性質上その占有取得にあたり取引上の注意義務として前示の注意義務を要請されることは当然というべく、したがつて、同人等がそれぞれ前主の無権利について善意であつたとしても、過失があつたものといわねばならず、同人等の即時取得もまたこれを認めることができない。<以下省略>
(久利馨 館忠彦 安井章)